聖ルチアと聖アガタ―グレゴリオ聖歌の楽譜から広がった、聖人探検

先日、グレゴリオ聖歌のグループで新しい楽譜が配布されました。
曲は「聖ルチアの Antiphona(交唱)」。
……聖ルチア。
名前はよく聞く。祝日もある。なんなら「目の聖人」というイメージもある。
でも、正直に言うと、
「どんな人生を歩んだ聖人か、ちゃんと説明できますか?」
と聞かれたら、ちょっと言葉に詰まる存在でした。
しかも、歌詞の中には別の聖人の名前まで出てくる。
Orante sancta Lucia, apparuit ei beata Agatha…
聖ルチアが祈っていると、聖アガタが現れた――?

え、どういう関係?
ということで、楽譜を片手に、少し調べてみることにしました。
聖ルチアって、どんな聖人?
聖ルチア(Lucia)は、4世紀ごろのシチリア島シラクサ出身の殉教者です。
時代はローマ帝国によるキリスト教迫害の真っ只中。
彼女は若くしてキリストに人生を捧げる決心をし、
信仰を捨てることを拒んだために殉教しました。
日本では特に「目の聖人」として知られています。
これは、後世に広まった伝承で、
拷問や迫害の中で視力や目に関わる苦しみを受けたと語られることからです。
そのため、
- 目の病気のために
- 視力の回復を願って
祈られる聖人として、今も多くの人に親しまれています。
ちなみに、12月13日が聖ルチアの祝日。
北欧では「ルチア祭」として、白い衣とろうそくの冠の行列が有名です。
歌詞に登場する「聖アガタ」との関係
今回の Antiphona の歌詞はこちら。
Orante sancta Lucia, apparuit ei beata Agatha: et consolabatur ancillam Christi
意味としては、
「聖ルチアが祈っていると、祝福された聖アガタが彼女に現れ、キリストのはしためを慰めた」
という内容です。
ここで登場する聖アガタ。
実はこの二人、時代も出身地も近い先輩・後輩関係の殉教者なのです。
聖アガタは、聖ルチアより少し前の時代、同じくシチリア島で殉教した女性の聖人。
伝承によると、
病気だった母のために聖アガタの墓を訪れ祈ったのが、聖ルチアだったとも言われています。
つまり、
憧れの先輩聖人が、苦難の中の後輩を励ましに現れる
という構図。
……強い。
これはもう、聖人版・精神的支援シーンです。
聖アガタってどんな聖人?
聖アガタもまた、4世紀の殉教者。
彼女は信仰のために過酷な迫害を受けました。
特に有名なのが、胸を切り取られる拷問の伝承。
そのため、聖アガタは
- 乳房の病気
- 女性の身体に関わる苦しみ
の守護聖人とされています。
重たい話ですが、こうした痛ましい殉教の記憶が、
「苦しみの中でも信仰を失わなかった人」として今に語り継がれているのです。
で、このグレゴリオ聖歌を歌ってみた感想
さて、ここからは少し現実に戻って……。
今回の聖ルチアの Antiphona、
2曲あります。
しかも、
- 旋法(モード)が違う
- 雰囲気も微妙に違う
という罠つき。
片方を歌ったあと、もう一方に戻ると、

「……あれ?どんなだったっけ?」
と、軽く記憶喪失。
きっと音感の良い人なら迷わないのでしょうが、
私はというと、毎回「最初どんなだったっけ?」と脳内リロードが必要。
楽譜をよく見ると、
「マニフィカトの交唱」「Ant 1f」と書いてある。

……1f?
モード1?
詩篇トーン1f?
と、ここでオタクモード発動。
歌いながらも、
「これはモード1だよね…?」
「詩篇トーンとの関係は…?」
と、思考が別レーンに走り出します。
結果、
- 音程
- モード
- 聖人の背景
が、頭の中で同時進行。
正直に言うと、
まだよく分かっていません。
でも、だからこそ面白い。
グレゴリオ聖歌は、
「歌えば歌うほど、わからないことが増える音楽」
なのだと、改めて思いました。
楽譜は、小さな窓
今回の聖ルチアの Antiphona。
一枚の楽譜から、
- 4世紀のシチリア
- 二人の女性殉教者
- 祈りと慰めの物語
が立ち上がってくる。
グレゴリオ聖歌は、
単なる「古い音楽」ではなく、
祈りと歴史と人の人生が折り重なった記憶のかたまりなのだと思います。
歌って混乱し、
調べて納得し、
また歌って迷う。
その繰り返しも含めて、
今日も私はこの沼の中です。
――聖ルチア、そして聖アガタ。
あなたたちの名前を、
私は今日、ちゃんと「歌いました」。
次に歌うときは、
きっと少しだけ、音の重みが変わって聞こえる気がしています。
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余談ですが……
実は、このグループ、仕事の関係でなかなか練習に参加できないので、
昨年末に退会しようと申し出たのですが、
なぜかまだ、幽霊部員のように留まっています。
私自身の中で色々と思うこともあり、
なかなか難しいです。

