ロザリオにまつわる物語 | 私があまりオーダー品を紹介しない理由

「オーダー品って、あまりブログに載せていませんよね?」
ある日、お客様からそんなご質問をいただきました。たしかに、私はロザリオのオーダー制作もしているのに、それをSNSやブログで頻繁に紹介することはほとんどありません。
理由は、とてもシンプルです。
それぞれのロザリオに、お客様の“想い”が込められているから。
「同じものを作ってほしい」と言われても…
オーダーをいただくとき、多くのお客様は何か特別なきっかけや、大切な思いを胸に抱えておられます。
たとえば——
あるお客様は、亡くなったお母さまの遺品と似た色のビーズでロザリオを作ってほしいとおっしゃいました。
また別の方は、巡礼の旅に出る前に、「一緒に祈るためのロザリオを」とご依頼くださいました。
そういったロザリオを「作品紹介」として掲載するのは、どうしてもためらわれてしまいます。
たとえ見た目が同じでも、その方の祈りが編み込まれたロザリオは、その方だけのもの。
なので、もしそれを見た別の方が「同じものが欲しい」と言われると、「お作りできないのです」となります。
ストーリーとともに紹介する方法も、あるけれど
もちろん、ロザリオ作家さんの中には、オーダー品の写真とともにお客様の背景やストーリーを紹介されている方もいらっしゃいます。
それはそれで、とても素敵な形だと思います。読んでいて感動しますし、「こんなロザリオを作ってもらえるんだ」と思っていただけるきっかけにもなるでしょう。
でも、私は……
その方の祈りを、そっと包んで見守っていたい。
そんな気持ちが勝ってしまうのです。
それがビジネスとして不器用なやり方かもしれないとわかっていても、やっぱり私は、お客様の祈りの空気感を壊したくないのだと思います。
なので、お客様のご購入の手続きが終わると、そっとその販売ページは非公開にし、Webサイトで紹介することもありません。
例外は「再販タイプ」や「カスタマイズタイプ」のオーダー品
とはいえ、すべてのオーダー品を非公開にしているわけではありません。
販売サイトで「オーダー品」として掲載しているものの多くは、以前販売していたロザリオと同じものをご希望された場合の“再販タイプ”です。
「売り切れていたあのロザリオがほしい」
「あのロザリオと色違い(または十字架違い)のものがほしい」
「以前購入したものと同じものを、家族にも贈りたい」
そういった場合には、販売ページは非公開にせず掲載している場合がほとんどです。
「フルオーダー」ではなく「カスタマイズした」タイプというとわかりやすいかもしれません。
また、私のロザリオは一部を除いて、リクエストがない限り同じものは繰り返し作っていません。
そのため、以前は商品名に「一点もの」と入れていたのですが……
ご希望があれば、ビーズやパーツがある限りできるだけお応えしているため、最近は確実に一点ものである場合のみ、その表記を使うようにしています。
お客様それぞれの“たったひとつの祈り”に、静かに寄り添うロザリオを作れたら——そんな気持ちで、ひとつひとつ手に取っています。
祈りの道具には、祈りの物語がある
ロザリオは、ただのアクセサリーではありません。
それは、祈りの道具であり、人生のある場面に寄り添ってきた証のようなもの。
作り手として私が大切にしているのは、デザインや素材以上に、そこに込められた“祈りの物語”です。
だから、たとえ目立たない存在であっても、静かに、誠実に、一つひとつのロザリオと向き合っていきたい。
そう思いながら、今日も制作の机に向かっています。
祈りのかたちに、そっと寄り添うために
実はこれまでに、カトリックの信者でない方にも使いやすい、アクセサリータイプのロザリオを作ってみたこともありました。
デザインの自由度も高く、もっと多くの人の目に留まるのかもしれない——そう思ったこともあります。
けれど、やっぱり私は「祈るためのロザリオ」に戻ってきます。
たとえそれが商業的には効率的でなくても、一般的なニーズにぴったり寄り添わなくても。
ロザリオは、ただの作品ではなく、誰かの祈りとともに歩むもの。
だから私は、祈りの道具としてのロザリオを、今日も丁寧に作っていきたいのです。
誰かの祈りのかたちを一緒に考えること、それは私にとっても、とても大切な祈りの時間なのです。