グレゴリオ聖歌|Salve Regina ― 「涙の谷」を歩む私たちの祈り

これまで、
- Alma Redemptoris Mater
- Ave Regina Caelorum
- Regina Caeli
という、季節ごとのマリア讃歌をご紹介してきました。
今回は、その最後を飾る
Salve Regina(サルヴェ・レジナ)
について書いてみようと思います。
4つのマリア讃歌の中では、おそらく最もよく知られている曲で、
実際に歌ったことがある方も多いのではないでしょうか。
私自身、この4曲の中でいちばん歌う機会が多いのも、この Salve Regina です。
Salve Reginaとは?
Salve Regina は、
「元后あわれみの母、喜びあれ」
と訳されます。
伝統的には、
聖霊降臨後から待降節まで
歌われるマリア讃歌です。
復活祭の喜びに満ちた季節が終わり、教会暦は再び日々の歩みへ戻ります。
そんな季節に歌われるのが、この Salve Regina です。
歌詞には何が歌われているの?
Salve Regina の歌詞は、
他のマリア讃歌と比べても少し印象が違います。
冒頭から、
Salve Regina, Mater misericordiae
元后あわれみの母よ、喜びあれ
と呼びかけます。
そして有名な一節へ続きます。
Ad te clamamus, exsules filii Evae
私たちはあなたに呼びかけます。
エバの追放された子らとして。
「涙の谷」とは?
Salve Regina を語る時に欠かせないのが、
in hac lacrimarum valle
この涙の谷で
という言葉です。
日本語訳でも、
「涙の谷」
としてよく知られています。
人生には、嬉しいこともあれば、悲しいこともあります。
思い通りにならないこともあります。
Salve Regina は、そんな人生の現実を見つめながら、
マリア様に助けを願う祈りです。
巡礼者の祈り
この歌には、
復活節の Regina Caeli のような
「アレルヤ!」という喜びはありません。
けれど、
絶望の歌でもありません。
涙の谷を歩きながらも、
その先にある希望を見つめる歌です。
最後には、
Et Iesum, benedictum fructum ventris tui
あなたの胎の祝福された実りであるイエスを
と歌われます。
ここでも視線の先にいるのは、やはりキリストです。
なぜこの季節に歌われるの?
復活節の Regina Caeli は、
何度もアレルヤが響く喜びの歌でした。
その復活節が終わり、教会は再び日常の歩みへ戻ります。
だからといって、喜びが終わるわけではありません。
私たちは、日々の生活の中で祈り続けます。
そんな時期に歌われるのが、この Salve Regina です。
私はこの曲を、
「巡礼者の歌」
だと思っています。
少しだけオタクな話
グレゴリオ聖歌の多くには、それぞれ複数の旋律や歌い方の伝統があります。
その代表的なもののひとつが、
- Simple Tone(簡略形)
- Solemn Tone(荘厳形)
です。
4つのマリア讃歌にもそれぞれこの2つのトーンがあります。
そして、私の印象では、
Salve Regina は特に二つの旋律の表情の違いが大きい曲です。
Simple Tone と Solemn Tone
一般に、
- Simple Tone は比較的簡潔な旋律、
- Solemn Tone は装飾が多く荘厳な旋律、
と考えると分かりやすいかもしれません。
もちろん、
「Simple=簡単」
「Solemn=難しい」
という意味ではありません。
どちらも美しい旋律ですが、受ける印象はかなり異なります。
同じ歌詞なのに雰囲気が変わる
Salve Regina の面白いところは、歌詞がまったく同じなのに、
旋律によって曲全体の表情が大きく変わることです。
Simple Tone は比較的親しみやすく、祈りがまっすぐ届くような印象。
一方の Solemn Tone は、
より装飾的で、深い祈りの世界へ入っていくような印象があります。
個人的には、同じ曲とは思えないほど雰囲気が変わるところも、
Salve Regina の魅力だと思っています。
詳しくは別の記事で
この話を始めると長くなってしまうので、
Simple Tone と Solemn Tone の違いについては、
別の記事で詳しくご紹介しています。
興味のある方はこちらから♪
Salve Reginaを聴いてみよう
Salve Regina は、グレゴリオ聖歌の中でも特によく歌われている曲です。
静かに始まり、祈るように進み、
最後は穏やかに終わります。
ぜひ音源を聴きながら、「涙の谷」という言葉に込められた祈りにも耳を傾けてみてください。
教会で歌うマリア讃歌
今年の復活節には、
私の所属教会でも閉祭後に Regina Caeli を歌っていました。
普段のミサでは、グレゴリオ聖歌を歌う機会はあまりありません。
そのため閉祭後の歌として、
季節に合ったマリア讃歌を歌うことがあります。
復活節が終わった今は、Salve Regina ではなく
Salve Mater Misericordiae
を歌っています。
待降節までまだ長いので、少し違うマリア讃歌を歌うのも楽しいものです。
こうした実際の運用は教会によってさまざまですが、
季節の歌を通して教会暦を感じられるのは、聖歌隊ならではの楽しみかもしれません。
まとめ
Salve Regina のポイント
- 聖霊降臨後から待降節まで歌われる
- 「元后あわれみの母」としてマリアに呼びかける歌
- 有名な「涙の谷」の表現が登場する
- 巡礼者として歩む私たちの祈り
- Simple Tone と Solemn Tone で印象が大きく変わる
Alma Redemptoris Mater から始まった四つのマリア讃歌。
待降節の静かな期待、
四旬節へ向かう凛とした祈り、
復活祭の喜び、
そして巡礼者の希望。
それぞれ違った表情を持ちながら、
どの曲も最後にはキリストへと私たちの目を向けてくれます。
私がいちばんよく歌うのも、この Salve Regina です。
だからこそ、季節が巡ってこの曲を歌い始めると、
「ああ、また教会の一年が始まったな」
と感じます。
季節ごとに歌われるマリア讃歌を知ると、
教会暦の一年が少し身近に感じられるかもしれません。
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