グレゴリオ聖歌、まさかの「沼」へようこそ!〜詩篇トーンと旋法で『祈り』を深掘り〜

グレゴリオ聖歌を歌い始めてから、早10年。
いやもう、ここまで深い世界だなんて聞いてないよ!?と、今さらながらに思っています。
で、最近また新しい「沼」の入り口を発見してしまいました。それが、詩篇トーンと旋法(モード)。
「なにそれ?」「絶対むずかしいやつじゃん」と思った方、ちょっと待って!これが分かるとグレゴリオ聖歌の世界が何倍も楽しくなります!きっと!もれなくオタクの扉も開きますが。
詩篇を歌うための「型」:詩篇トーンとは?
実は私、詩篇がけっこう好きです。あの流れるような旋律と、聖書の言葉が溶け合ったような雰囲気、まさに「聖歌」って感じで美しい。
……が。自分で歌うとなると、現実はけっこうシビア。ちょっとやそっとじゃ歌えない。
詩篇って、長いです。しかも、回によって歌詞が変わるから毎回作曲してたら追いつかない。ということで、用意されているのが定型メロディ=詩篇トーン。これがもう、知れば知るほどヤバイ。(色々な意味で)
この「型」はざっくり言うと、こんな3つの要素でできています。
- 詠唱音(Reciting Tone)
→ 基本、同じ音をひたすら。修行僧か!?と思うほどの一定音。でもこの無心さが逆にクセになる。 - 中間終止(Mediant)
→ 句の途中でちょっとだけメロディが動いて「ここで区切って吸ってくださいね〜」の合図。まるで高速のPA。 - 終止形(Differentia)
→ 最後にふっとメロディが変化。これがまた何パターンあるんだよ!?っていうくらい多い。初めて『Liber Usualis』で見た時、「トーン1にg?g2?g3?多すぎて無理ー!」って、完全に思考停止しました(笑)今も思考停止してます。
でもこの終止形、全部理由があるのです。というのも…
詩篇は「アンティフォナ」とセットでひとつ!
詩篇って、それ単独で歌うわけじゃなくて、必ずアンティフォナ(Antiphona)という短い聖歌とセット。アンティフォナがテーマを示して、それに続けて詩篇が歌われる感じです。
要するに、アンティフォナ=主役、詩篇=名脇役。
そして!詩篇の終止形パターンが大量にあるのは、このアンティフォナの最初の音に自然につなげるため。旋律の橋渡しをする役目だったとは……!
これ知ったとき、「ああああ!そういうことかぁぁ!」と、ひとりで興奮。点と点が線でつながった瞬間です。
詩篇トーンの「味付け」:旋法(モード)の沼へようこそ
さて、詩篇トーンを語ると絶対出てくるのが旋法(モード)という言葉。
義務教育の音楽知識しかない私は、「モード? ドレミファソラシドのこと?」「ハ長調とイ短調の仲間かな?」くらいの認識。
でもグレゴリオ聖歌の旋法は、「教会旋法」とも言われるもっとずっと古い時代の「音楽の味付け」システム。
- グレゴリオ聖歌の旋法についてはこちらの記事もどうぞ(ちょこっとだけ詳しく書いてます)
例えるなら、料理の「和風・中華・イタリアン」みたいな感じで、聖歌にも味ジャンルがある。そして、それが8種類(場合によっては9種類)もあるという。
旋法には、「終止音(Finalis)」と「詠唱音(Tenor)」が決まっていて、その組み合わせでモードが構成されます。
で、そのモードに合わせて、さっきの詩篇トーンも対応します。
つまり、「今日はモード1(甘口)だから、トーン1(甘口スープ)でよろしく!」みたいな世界。
私の中ではすでに「これはモード何番?クイズ」が常設開催中。
「うーん、この雰囲気、ちょっと陰キャ寄りだからモード2?でも終止音Dじゃないし……」とか、だれもいないのに頭の中でひとり実況(笑)
終止形の違いだけで「この旋律、しびれるわ…」とか言い出すようになったらもう完全に末期です。
そして、私のグレゴリオ聖歌の旅はまだまだ続く…
これまでのクラスでは、詩篇トーンや旋法の話は正直あまり出てこなくて、「はい、この楽譜でーす」って全部書かれてる譜面を歌うパターン。めちゃくちゃ歌いやすいしわかりやすいです。
正直、今も全部記載の楽譜があれば何となく歌えるけれど、詩篇トーンの簡単な四線譜の下に、ずらーっと詩篇のラテン語が羅列されてると相当気合い入れて練習しないと歌えません(マーカー必須!ふりがな必須!)
でも最近、そんなふうに何度もラテン語を読んで、音を確認して思うことは、
歌っているものの意味や文脈が分かってこそ、それは本当の「祈り」になるのではないのか、と言うこと。
祈りとしてのグレゴリオ聖歌をちゃんと味わいたい。
そのためにも、詩篇トーンも旋法も、ネウマたちも、もっとちゃんと付き合っていきたい。
(わけわからないし、混乱するし、心が折れそうになるけど)
沼は深くて果てしないけれど、
「ネウマを見る」時間って、なかなかに幸せだったりするのです。
いつか詩篇トーンクイズ、出題したい…!
最近妄想してるのが「終止形イントネーションクイズ大会 」
目指せ!違いのわかるネウマ変態。
そしていつか、My Triplexを抱えて「このラオンのぐるぐるってどう歌えばいいですか?」と聞いた瞬間、周囲がドン引きする日を夢見て──。


