グルグルにラクダのこぶ|クセ強ネウマの聖地「ラオン写本(Laon 239)」妄想探訪記

Triplexのネウマ

Graduale Triplexに小さく記された “L” の記号。
その正体は、ラオン修道院(Laon)写本239番(Laon 239)
初めてそれを見つけたとき、私は正直こう思いました。

「え…なんかグルグルしてる。ていうか……グルグルしすぎじゃない?」

線がうねり、曲がり、装飾し放題。
その勢いは、もはやネウマというより現代アート。
Triplexのザンクト・ガレン(C)やアインジーデルン(E)が冷静な解説者だとしたら、
ラオン(L)は情熱だけで筆を走らせた自由な詩人のよう。

Triplexネウマ略記号の見分け方(ざっくり)

ついでにTriplexでの略記号をおさらい:

  • L … ラオン(Laon):グルグル・ねじれ・カーブの宝庫。クセ強。
  • C … ザンクト・ガレン(St. Gallen):丸くてやさしい。ちょっと親切。
  • E … アインジーデルン(Einsiedeln)(ザンクト・ガレン系):几帳面で安定感。読みやすさ抜群。

ネウマを追っているとき、Lを見ると一瞬「うっ」となりますが、
読み込むほどに中毒性が……。

グルグルにラクダの背中、どうやって歌えと?

Laon写本のネウマは一言でいうと…

「ラクダの背中 × 渦巻き × タンポポの綿毛」

とにかくいろんなフォルムが混在。

さて、ラオン修道院写本(Laon 239)の「これは何を意味しているの?」選手権。
有力候補は、私が勝手に名付けた三大ネウマです。

1. ぐるぐるネウマ(L86)
一筆書きで渦巻き。回る回るよ音符は回る。旋法も回る、視線も回る。

グルグルネウマ
上の黒いのがラオン、赤いのはアインジーデルン

2. ラクダの背ネウマ(L90)
なだらかな山…いや、もはや背中。不規則に並ぶコブたちが不思議と愛しい。

ラクダの背中ネウマ
フタコブラクダみたいなラオンのネウマ(下はザンクト・ガレン)

3. 草ネウマ(L176)
斜線がバッサバサ!何かに怒ってる?それとも急いでた?
草書体のカリグラフィーか、あるいはスラッシュ連打職人の仕業か。

トレモロ草
////なラオン、下はザンクト・ガレンのネウマ

妄想が止まりません。

そして、頭の中ではツッコミも止まりません。

「装飾多すぎて音見失うわ!」
「ねぇこれ歌っていいやつ?」
「というか誰向けなの!?」

ネウマの正体を予測(あくまで予測)

  • グルグル
    クィリスマ (Quilisma)?それとも進化したトルクス(Torculus)?Google先生に聞いたらクィリスマって言われたけど……。
  • ラクダの背中
    トルクス(Torculus)とか、ポレクタス (Porrectus)っぽい。音の高低のネウマ?
  • 草ネウマ
    トリヴィルガっぽい。けど、トリヴィルガって線3本。草ネウマは4本ある……4本ってなに?

誰か、知っているひと教えて!

マニアあるある:Triplex編

  • Triplexを読んでるだけで一日が終わる
  • ラオンとアインジーデルンが言ってることが違うと「どっち信じよう」問題発生
  • ラオンだけ装飾多すぎて「これは歌わず見て楽しむ用」疑惑
  • グルグルが出てくると「おっきた!」とテンション上がるけど、たぶん歌えない

妄想補完:書き写してる修道士の気分になってみた

たぶんこう。

「今日のこのカーブ、ちょっと気合い入れて多めに書いちゃお♪」
「このスカンディクス(←ネウマ用語)、ちょっと芸術点高めに」
「あのソリストに届け、この抑揚!」

中世修道士が筆をとる姿まで脳内再生されます。
もうここまでくると、自分が写本の一部になった気分。

まとめ:ラオンは沼であり、宇宙

ラオン写本(Laon 239)は、グレゴリオ聖歌ネウマの中でもとびきりの個性派。
読み解くのは大変だけど、想像と妄想がふくらむ楽しさは無限大

祈りの歌であるはずのグレゴリオ聖歌が、ここではちょっと遊び心たっぷりの美術館に変わる。
だから、今日もTriplexを片手にグルグルネウマに癒されるのです。