ズケットはなぜ落ちない?ローマ教皇のあの小さな帽子の不思議

最近、ブログのアクセス解析を見ていたら、妙に目を引く検索キーワードがありました。
「ズケット 落ちない」「ローマ教皇 帽子 落ちない」
……あの小さな帽子、気になりますよね!
おそらく、先日のコンクラーベで選出された新ローマ教皇レオ14世誕生のニュースをきっかけに、テレビやSNSで見かけた「聖職者の帽子」が気になった方が多いのではないでしょうか。
ローマ教皇や枢機卿、司教たちがかぶっている、あの丸くて小さな帽子。
ミサ中でも、歩いていても、風が吹いても落ちない……不思議な“あの帽子”について、今日はカトリック信徒のひとりとして、ちょっとだけ真面目(?)に考察してみたいと思います。
カトリック聖職者の“階級”と、帽子のお話
カトリックの聖職者には、いわゆる「階級」があります。
いちばん上がローマ教皇、その下に枢機卿(聖職者の中から選ばれる特別な役職)、司教、大司教、司祭、助祭……と続いています。役割に応じて、着るもの・かぶるものも変わってきます。
わたしの所属する教会では、クリスマスやイースター、聖霊降臨といった大きな祝日には司教司式でミサが行われます。
そのたびに気になって仕方ないのが、司教様のかぶっている「帽子」です。
初めての司教ミサで目が釘付けに
初めて参加した司教司式のミサで、入堂してきた司教様を見たときの私の感想。
「うわぁ、ドラクエみたい……!」
杖を持って、大きな白い冠のようなものをかぶってゆっくり入堂する姿は、まさに異世界の賢者。
……と、失礼ながら心の中で思ってしまったのを、今でも覚えています。

しかもその「ドラクエ帽子(=ミトラ)」を取ると、中にもうひとつ小さな帽子が!
「なぜ帽子の中に帽子!?」
思わず目が釘付けに。そして、その大きな帽子を侍者さんが受け取り、パカっと折りたたむではありませんか。
「え、折りたためるの!?」
ミサ中も司教様はその小さな帽子を、奉献文の前にそっと外し、聖体拝領後にまたかぶっているようでした。(ちょっとうろ覚えです)
カトリック教会に通い始めて間もない頃の私は、もう興味津々。ミサが終わってからも、頭の中は帽子のことでいっぱいでした。
あの帽子の正体は?
ミトラとズケット(カロッタ)

司教がかぶっていた大きな帽子は、ミトラ(司教冠)と呼ばれます。
カトリック教会や聖公会、正教会などで、司教(正教会では主教)が典礼時にかぶる冠です。
そして、そのミトラの下にかぶっている小さな半球型の帽子こそ、今回の主役。
それが、ズケット(イタリア語)またはカロッタ(ラテン語)です。
このズケット、実は色で階級がわかるのです。
階級 | ズケットの色 |
---|---|
教皇 | 白 |
枢機卿 | 赤 |
司教 | 赤紫 |
神学生・神学博士など(場合による) | 黒 |
ズケットの歴史は意外と古く、13世紀ごろから使われていたようです。
もともとは司祭叙階の際に剃髪(ていはつ)した頭頂部を覆うためのもので、
当初はミトラの代わりに使われていたのだとか。
時代とともに役割も変わり、現在では、ミトラの下にかぶる帽子として定着。
1968年には教皇パウロ6世によって、高位聖職者の常用帽として正式に定められました。
ちなみに、司教が手に持っている曲がった杖は「バクルス(牧杖)」。羊飼いが羊を導くように、信徒を導く象徴です。ここでもまたドラクエ感……(笑)
ズケットって、どうして落ちないの?
本題に戻りましょう。
ズケットって、どうして落ちないの?
実はこれ、明確な構造的“仕掛け”があるわけではないようです。ズケットの内側は、軽く滑り止めのような素材になっていたり、頭の形にフィットするようサイズを調整したりしているとのこと。
また、聖職者は儀式の間に激しく動き回ることがないため、落ちにくいという実用面の理由もあるようです。
カトリックの服装には、単なる装飾以上の「意味」や「伝統」が込められています。たとえ小さな帽子ひとつでも、それをきちんと着用することで、信仰や職務の尊さを示しているのですね。
おまけの小話:さらに気になる“被り物”
ズケットに夢中になって調べていた私ですが、もうひとつ、ずーっと気になっていた帽子があります。

それは――枢機卿がかぶっている、赤くて角ばった、四角い帽子。
「えっ、ズケットってこういう形もあるの?」と一瞬混乱したあの帽子です。
先日のコンクラーベでも枢機卿たちがかぶっている姿をニュースやネットで見るたびに「あの帽子は何?」と。
調べてみたところ、あれは「ビレッタ(biretta)」という、まったく別の帽子。
ズケットが丸くて頭にぴったりフィットするのに対し、ビレッタは四角くて、てっぺんにちょこんと飾り(タッセルや房)が付いていることが多い、ちょっとおしゃれな“儀式用帽子”なのだそうです。
名前 | 形 | 主な使用場面 |
---|---|---|
ズケット | 丸い | ミサなど典礼時 |
ビレッタ | 四角い角付き | 非典礼時や式典、学術儀式など |
ちなみに色は、ズケットと同じく階級で決まっていて、枢機卿は赤、司教は紫、司祭は黒。
近年はビレッタをかぶる場面も少なくなっているそうですが、伝統的なミサや、バチカンの儀式ではよく見かけます。
ズケットとはまた違う、知的な雰囲気を醸し出す帽子……。まさに“聖職者ファッション”の奥深さを感じさせるアイテムです。
小さな帽子の中に宿る、信仰と伝統
一見すると、ただの小さな帽子。でもズケットには、カトリックの長い歴史と聖職者としての誇りが詰まっています。
ニュースや映像で見かけるズケットを、次に目にしたときは、ぜひ少しだけ目をこらしてみてください。
そこには、落ちないように計算された「構造」だけでなく、「落としてはいけないもの」が宿っているのかもしれません。